鉄骨置屋根構造の特性と被害
1.はじめに
2011年東日本大震災から4年が経過した。多くの沿岸諸地域が大津波により甚大な被害を受けたが、再建はまだその途上にある。一日も早い復興と新たな発展を祈りたい。
建築被害に関しては、津波被害があまりにも大きかったため、地震動による被害がやや隠れてしまった感もある。主体構造の被害については、1981年の建築基準法改正や1995年阪神淡路大震災後の耐震診断・改修の促進によって、かなり軽減されたと考えられる。しかし、天井落下などの非構造材の被害により死傷者が出るなど、これまでの耐震設計の盲点と思われる被害が多数生じた。
特に、地震後の避難施設として使われるべき体育館に、鉄骨屋根部とRC軸組部の接点の被害や非構造壁の振動被害などが発生し、そのために使用不能となり、避難所としての機能を果たし得なかった事例が多数生じた。これは社会の防災上極めて重大な問題である。被害を生じた建物はいずれも類似の構造のものであり、以下鉄骨置屋根構造と呼ぶ。
鉄骨置屋根構造で造られている体育館などは、これから大きな地震が来るかもしれないと想定されている東京直下型、東海、東南海、南海の地域にも多数存在していると考えられる。体育館は避難の重要施設であり避難所の被害は被災者の生死を左右しかねない。そのようなことから、一般社団法人建築研究振興協会東北分室(室長 田中礼治)の東北耐震診断改修委員会(委員長 柴田明徳 東北大学名誉教授)では東日本大震災後、鉄骨置屋根構造に関して鉄骨置屋根構造耐震検討WGを設け被害調査を行った。被害調査結果については「東日本大震災における鉄骨置屋根構造の被害調査報告」としてまとめ、2012年8月30日に日本建築学会ホールにて被害報告会を行った。その後、鉄骨置屋根構造の研究は建築研究開発コンソーシアム「鉄骨置屋根構造の耐震性能に関する研究会」(委員長 柴田明徳 東北大学名誉教授)に引き継がれ、被害分析、耐震診断の進め方などについて検討を加えてきた。今般、それらの検討結果をまとめて、技報堂出版(株)より「鉄骨置屋根構造の耐震診断・改修の考え方」として冊子を出版した。参考にしていただければ幸いである。
2.鉄骨置屋根構造について
鉄骨置屋根構造の概要を、図1に示す。
鉄骨置屋根構造は、鉄骨造屋根、RC造柱(SRC造もある)、屋根と柱の接合部の3つ部位から構成されているハイブリッド構造である。屋根と柱の接合は、RC柱に定着されている先付けアンカーボルトで接合されている。RC造柱は片持形式で、長柱のものほど被害が大きくなる傾向が見られる。屋根のスパン長さは一般に大きい。
3.被害の特徴
鉄骨置屋根構造の被害の特徴を以下に示す。
1)被害箇所
被害が最も大きいのは、鉄骨置屋根とRC柱の接合部である。勿論、接合部の被害により、鉄骨置屋根の構成部材に応力変化が生じ、座屈などの被害が見られる。また、RC柱に多数のきれつが発生するなどの被害も見られ、接合部の破壊の影響が多方面に発生するのが特徴である。
2)接合部の被害状況
鉄骨置屋根とRC柱の接合部の被害状況は、次の2種に大別できる。
① アンカーボルトの破断(写真1,写真2)
② アンカーボルトの支圧によるコンクリートの破壊
3)被害方向
被害方向は、次の2種である。
① 桁行壁面の面外方向
② 妻面壁面の面外方向(写真3,写真4)
図2に、被害方向の概略を示す。
写真1 アンカーボルト破断
敷モルタル破壊
写真2 アンカーボルト破断
敷モルタル破壊
写真3 妻面外への破断
写真4 妻壁が面外に変形して
屋根との間に隙間ができている
4.鉄骨置屋根構造の耐震診断および耐震改修に関する相談について
①鉄骨置屋根構造の耐震診断・改修評定委員会
一般社団法人建築研究振興協会
東北耐震診断・改修委員会(委員長柴田明徳東北大学名誉教授)
連絡は(一社)日本建設技術高度化機構(nktkk2@nifty.com)
及び、(一社)建築研究振興協会
②改修工法開発の指導
一般社団法人日本建設技術高度化機構
鉄骨置屋根構造改修工法開発委員会(委員長竹内徹東京工業大学教授)
連絡は(一社)日本建設技術高度化機構(nktkk2@nifty.com)
この委員会では企業からの改修工法の開発委託を受けて、新しい工法を実用化し、社会貢
献することを目的とする。接合部の免振、制振、あるいは柱のバットレスに制振を使用す
るなどは新しい補強方法として有望。
5.関連書籍
① 建築の研究No.231(一般社団法人建築研究振興協会)平成27年10月1日発行鉄骨置屋根構
造の耐震診断・改修の考え方(その1鉄骨置屋根構造の地震被害と耐震診断の考え方)
竹内徹1)、田中礼治2)、柴田明徳3)
1)東京工業大学教授
2)東北工業大学名誉教授
3)東北大学名誉教授
② 建築の研究No.232(一般社団法人建築研究振興協会)平成27年12月発行予定
鉄骨置屋根構造の耐震診断・改修の考え方(その2鉄骨置屋根構造の耐震診断計算例)、
川辺祥一1)、安岡千尋2)、木村秀樹3)
1)株式会社構造システム
2)株式会社竹中工務店
3)株式会社竹中工務店
③ 建築技術2015年12月号(P64~P69)鉄骨置屋根構造の耐震診断・改修の考え方(第1回鉄骨置屋根構造の特性と被害)田中礼治1)、小野瀬順一2)、柴田明徳3)
1) 東北工業大学名誉教授
2) 東北工業大学名誉教授
3) 東北大学名誉教授
④ 建築技術2016年1月号(予定)鉄骨置屋根構造の耐震診断・改修の考え方
(第2回 耐震診断・改修の考え方)竹内徹1)
1)東京工業大学教授
⑤ 建築技術2016年2月号(予定)鉄骨置屋根構造の耐震診断・改修の考え方
(第3回 計算例1(N市市民体育館モデル))川辺祥一1)
1)株式会社 構造システム