津波建築

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津波建築

1.はじめに

東日本大震災における連戦連敗の例を写真1のように津波で全てが流された現状はどう見ても「津波に負けない」とは言えません。東日本大震災では写真4.1.1のような被害状況の所は数えきれないほど沢山ありました。 日本はこれまで津波に勝ったことがありません。現在のように科学技術が発達しても、東日本大震災でもやはり津波に敗れました。何故、津波に勝てないのでしょうか。津波に勝つためにはどうしたらよいのでしょうか。腰を据えて考えてみる必要があります。

このまま何もせずにまた津波を迎えたら、東日本大震災のように多くの方が亡くなり、多くの家が流され、多くの涙を流し、涙がかわくまでの長い時間を我慢しなければなりません。そのような悲劇はもう二度と繰り返してはならないと思っています。そのためには、日本に住む全員が津波について考え、津波による被害のない国づくりをしていかなければなりません。

写真1 宮城県南三陸町の津波による被害町全体が津波に持って行かれたことが分かる


 

2.現代建築は津波に負けない

日本の津波の歴史において、津波に対し連戦連敗であったことは前述しました。連戦連敗は当然の話で、津波に勝つための方策が少なかったということに尽きます。今回の東日本大震災において現代建築という津波と闘える方法を手に入れたと思います。これからは、現代建築という技術を用いて津波と充分闘っていけます。我々はようやく、「建築で津波と闘える新しい時代」を向かえたと考えています。写真2(a)(j)には津波の大きかった地域の海岸近くに建っていて、大きな津波を受けた後もしっかりと残存していた現代建築の建物を一覧しておきます。残存していた現代建築の建物が沢山ありすぎて全部は紹介できないのが残念です。

(a)洋野町(岩手県)      (b)田野畑村(岩手県)   (c)田野畑村(岩手県)

(d)宮古市(岩手県)     (e)陸前高田市(岩手県)   (f)気仙沼市(宮城県)

(g)石巻市(宮城県)     (h)女川町(宮城県) (i)岩沼市(宮城県)

(j)亘理町(宮城県)

写真2  東日本大震災の津波で流失せずに残留した現代建築の事例

 

3.ピロティ構造は津波に強い

見付け面積の小さいピロティ構造(注1参照)は津波に有利です。このピロティの有利性を木造住宅に応用した事例が岩手県、宮城県で見られましたので写真3~写真5に示しておきます。いずれのピロティ式住宅、ピロティ式マンションでも津波の翌日から日常生活が送れたと言っており、ピロティ効果の有効性が認められました。

写真3 宮城県気仙沼市大谷海岸近くの1階ピロティ構造住宅 無被害

写真4 宮城県塩釜市内の1階ピロティ構造住宅 無被害

写真5 1階がピロティ構造のマンション津波を受けましたが翌日から日常生活ができました

ちなみに、ピロティ構造というのは図1に示すように柱と梁だけから造られている構造を言います。柱と梁しかないので、津波は図2のようの建物の中を自由に行き来できます。それ故、津波の力を受けにくい、津波に強い建物を造るのに適しています。図11階のみがピロティ構造の場合の例ですが、2階、3階と多層階をピロティ構造にすることも可能です。

1 ピロティ構造(柱と梁だけから造られている)の簡略図

2 ピロティ構造では津波が自由に行き来できるので津波に強い建物を造れます

第3回国連防災世界会議

1.パブリックフォーラム

シンポジウム(通訳付き)

「人々と生活、津波に負けない建物とまち―建物を活用した津波減災対策を考える―」

第3回国連防災世界会議パブリックフォーラム主催者様宛ご案内

津波建築勉強会国際シンポプログラム裏面荒浜見学会

 

2.津波実験(通訳付き)

津波に弱い建物・強い建物

―自分で造って、自分で津波実験して確かめよう―

津波建築勉強会国際シンポプログラム 裏面津波実験と本

 

3.津波伝承建築のバス見学(通訳付き)

―仙台荒浜から井土浜に今も残る津波被害建物、その状況を検分―

津波伝承建築見学 建物の津波実験案内

 

4.英文による総合案内

Program of symposium tsunami-architecture

 

5.勉強会からの出版本の案内

「津波に負けない住いとまちをつくろう」

技報堂出版より発行。丸善(アエル)で買えます。

津波本1

津波本2

東日本大震災の教訓を後世に残すことを考える勉強会

会長あいさつ

和田 章(わだ あきら)

和田先生

 

東京工業大学名誉教授 前日本建築学会会長(2011-2013)工学博士

 

日本学術会議会員
東日本大震災の総合対応に関する学協会連絡会議長
専門分野:建築構造学、耐震建築、免震構造、制振構造、地震工学

 

1982年 東京工業大学助教授
1984年 ワシントン大学客員研究員
1989年 東京工業大学教授
1991年 マサチューセッツ工科大学客員教授
2000年 イタリア・カターニア大学 客員教授
2011年 東京工業大学名誉教授、日本建築学会会長就任
2011年 日本学術会議土木工学・建築学委員会委員長
2012年 連続シンポジウム「巨大災害から生命と国土を護る」学協会連絡会議長
2013年 国際構造工学協会(IABSE)副会長
2014年 日本免震構造協会会長

 

防災の基本は自助だと考えています。もちろん、何かが起きてしまえば共助、これでもダメなら公助が必要です。ただ、いまの日本は災害は起きるものとし、復旧・復興・次の対策は国や県に頼ることが常識になっています。

 

1000年に一度のような自然の猛威に対して、大きな災害を起こさないための原則は、
1.Location
国土計画、各種の産業をどこで行うか、人々はどこに住むか、鉄道や道路網の冗長化、津波避難にも使える山道、大都市への集中問題、過疎化の問題、原子力発電所の立地、崖の下には建築を建てないなど、多くの問題があり、日本の活力を失わない範囲で、自然の猛威に負けないように日本の土地利用を考え直さねばならない。

2.Structures
地震に壊れない土木や建築物、津波に負けない建築物を構築する。特に低層の木造建築を津波の来るところに建てることは止めるべきであり、このようなところに暮らすなら十分な高さの中高層住宅を建てるのが正しい。人々の命を守るために構造物は壊れないことが必要だが、極力、免震構造や制振構造を活用して、財産価値を守り、できれば機能の維持も考えるべきである。防潮堤、堤防、砂防ダムなどを造るなら津波や土砂に負けないように作るべきである。ただ、これらの人工物が景観を損ねたり、自然を破壊したり、自然循環を遮ったりしないようにしなければならない。

3.Operation
地震の研究、津波の研究、災害情報の発信、避難訓練など、何かが起きたときの対処を考える。たとえば森ビルが発表したように「逃げ出すまちから逃げ込めるまちへ」のように、各戸、建物、学校、企業、工場などの中にいる人々が逃げずに、10日ほどその処に泊まり込めるように普段から準備する必要がある。

4.Risk Transfer
絶対に壊れない社会はできない。何かが起きたあと、立ち直るための策を考えておかねばならない。企業は工場を全国に複数おき、生産が止まらないようにする。保険を利用して、危険を他者と分け合うなどの方法が必要である。Riskを国家予算に頼る方法は人々を甘やかすだけであり、防災力は高まらない。津波の瓦礫は国が多額の予算を使って片付け、傾いた建物は市や県が取り壊して片付けている。本来これらは保険金などによって持ち主が行うべきものである。

 

以上、少々書き過ぎのことがあると思いますが、皆で国にぶら下がるのは止めにして自分たちの力でより安全な住み方・暮らし方に変えていく必要があると考えています。

 

 

代表者あいさつ

河田 恵昭(かわた よしあき)

河田惠昭顔写1.67MB

 

関西大学社会安全学部教授・社会安全研究センター長
京都大学名誉教授 工学博士
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長
専門分野:防災・減災、河川工学、自然災害、防災システム


1976年 京都大学防災研究所助教授
1981年 ワシントン大学客員研究員
1993年 京都大学防災研究所教授
2007年 国連SASAKAWA防災賞
2009年 京都大学名誉教授
2010年 関西大学社会安全学部教授、学部長
2010年 岩波新書「津波災害~減災社会を築く~」東日本大震災3か月前に上梓
2011年 東日本大震災復興構想会議委員
2012年 内閣府・南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ主査

 

東日本大震災の教訓は、首都直下地震、南海トラフ沿いの地震の備えに大いに活かされるべきです。その為にも、防潮堤とか高台移転の問題をもっと考えなくてはいけないのですが、基本的なことが押さえられていないような気がします。要するに、人びとが生活できる、食べていけるまちを作らなければならない。防災だけ考えても、食べていけなければ、そこに人は住めないのです。19年前の阪神・淡路大震災もそうですが、被災者を真ん中において議論するという、そういうスタンスが、災害にどう備えるかということを考えるときにとても大切なことです。ですから、ここでも建築物という、あまり広げずに、建物というところを中心において議論をすることは、とても良いことだと思います。広げてしまうと、結局、発散してしまって、あれもこれもしなければならない、ということになってしまい、いろいろなことが書いてあるけれども、インパクトがないということになります。ですから、建物でいいと思うのです。

アメリカ合衆国は今、ハリケーンカトリーナとサンディーの後のまちづくりをしていますが、日本のように、海岸に山がすぐある訳ではないので、皆、ピロティー形式の建物で高潮氾濫に対処しようとしています。基本的には自己責任の原則ですから、ピロティーの高さが家ごとに違います。お金のある居住者は頑丈な高いピロティーで、そうでないのは、気は心みたいな、といった風で低く作られています。そういう風に持っていかないと…。日本も、行政が号令かけて一斉に同じ基準に従う時代ではないでしょう。文化というのはそういうものです。東日本大震災というのは防災・減災対策をきちっと将来に向けて切り替える転機だと思っています。

これまで、日本の防災は、全部、対処療法で応急的に処置するという傾向にありました。例えば、江戸時代の初め、1657年に明暦の大火が起こったとき、大名火消しや定火消しでは足らないというので、町火消しを作りました。イギリスのロンドン大火は1666年ですけれども、あの時、産業革命の前ですから、イギリス全土は鬱蒼たる森にほぼ覆われていました。シェークスピアの家でも、全部木造ですからね。なのに、道路に面したところはレンガで作れとか道路の最小幅員を決めました。そういうように、市街地の構造を抜本的に変えるということをしました、やはり、あの国には勇気があるのです。日本は、何かしようとすると勇気がないというか、抜本的なことを避ける傾向があります。民主主義というのは、勇気がなかった退廃するのです。その典型が日本なのかもしれません。出来るとか出来ないかではなく、勇気をもって挑戦しようということです。

民間建築物に焦点を絞ったこの勉強会は面白い取り組みです。建築・土木、理系・文系といった垣根を取り払い、津波減災に対する国民的ムーブメントの端緒になることを希望しています。

津波とピロティ構造(その1)

1.はじめに

2011311日の東日本大震災から早や5年が経過しようとしている。いまだ、多くの方々が仮住まいをしいられており、住まいに苦しめられている。災害復旧の遅れは、災害の大きさと関係するのが一般的である。東日本大震災がいかに大きな災害であったかが分かる。

東日本大震災の被害の大半は津波による被害であると言っても過言ではない。現在でも住まいに苦しめられている状態から見ると、いかに津波と建築が密接な関係にあるかが分かる。日本では何故か、津波は土木分野の課題として処理されてきたように思う。別に、土木が処理しようが、建築がやろうが問題はないのだが、東日本大震災後の住宅事情を見るとこれからは建築の方々も津波問題についてこれまで以上に力を注いで努力する必要があるのではないかと考えている。

そのようなことから筆者等は津波と建築の関係は今後どうすべきかを考えるために201410月に「東日本大震災の教訓を後世に残すことを考える勉強会」(会長 和田章 元日本建築学会会長)を一般社団法人日本津波建築協会に設置し活動を行っている。本報告はその勉強会での成果の一部であると同時に、これから来ると予想される東海、東南海、南海の地震で発生するかも知れない津波の減災対策に活用していただければと思い執筆したものである。

比較的津波に効果的だと考えられているピロティ構造について、これまであまり検討されてこなかったように思われる。そこで本報では津波とピロティ構造の関係について多少検討したので報告する。ピロティ構造は津波避難ビル等にも使用されており、これからの津波減災対策に欠かせない建築物だと考えられる。御一読してもらい、参考にしていただければ幸いである。


2.近代建築は十分津波に抵抗できる

写真1および写真2はいずれも岩手県田老町での津波の被害状況である。

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写真1 昭和三陸大津波では全ての建物が流失している(1933年)


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写真2 東日本大震災では津波後でも多くの建物が残存している(2011年)

 

 

写真1と写真2は、ほぼ同じ場所から同じ方向を撮ったものである。写真1は昭和三陸大津波(1933年、昭和8年)の被害状況であり、写真2は東日本大震災(2011年、平成23年)でのそれである。写真1と写真2を比べてみると両者には大きな違いがあることが分かる。何が違うかというと昭和三陸大津波の写真1では津波でほとんど全ての建物が流失しているのに対して、東日本大震災の写真2では多くの建物が流失せずに残存している。即ち、昭和三陸大津波の時代には建物の抵抗力が弱く津波に抵抗できなかったものが、東日本大震災では建築技術の進歩により建物の抵抗力が大きくなり、津波に抵抗していることが分かる。これまで、日本人の多くは津波の力はもの凄く大きくて津波に抵抗できるような建物は造れないのではないかという根拠のない恐怖感が先走っていたように思う。しかし、写真2から分かるように現在の建築技術をもってすれば十分に津波に抵抗できる建物を造ることが出来たことが分かる。

 

「羹に懲りて膾を吹く」というようなことをする必要がない時代が到来したということである。これからは建築を用いて津波と堂々と渡り合って津波と闘っていける時代がやってきたことを東日本大震災が証明してくれたと考えている。そういう意味では東日本大震災の津波は、画期的な出来事であったと思う。しかしながら、この新しい時代の幕開けのために2万人近い方々が犠牲になったということは、残念でならない。


 

3.津波避難ビルから見える津波と建築の相関

津波の避難には水平避難と鉛直避難の2種が存在する。鉛直避難は建物の高さ方向を活用する方法である。鉛直避難を可能にするには津波に十分抵抗し得る建物が必要である。津波避難ビルに関しては、2005年(平成176月)に「津波避難ビル等に係るガイドライン」1が発行されている。2012年(平成242月)には「津波避難ビル等の構造上の要件の解説」2が発行されている。

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写真3 津波避難タワーの1例(仙台市)

いずれにしても、津波避難ビルは建物が津波に対して十分抵抗し得ることが前提であるから、避難ビルの基本的な考え方は現代建築は津波に抵抗し得るという概念がベースになっている。写真3は東日本大震災後仙台市内に建設された津波避難タワーの1例である。鉄骨造で、最上階には避難所と食料、水などの非常時備品などの保管所が設置されている。

 

津波とピロティ構造(その2)

4.ピロティ構造の津波での有効性を検証した東日本大震災

見付け面積の小さいピロティ構造は津波に効果的である。東日本大震災において、このピロティの有効性を活用した住宅の事例が岩手県、宮城県で見られた。1例を写真4に示しておく。いずれのピロティ式住宅、ピロティ式マンションでも津波の翌日から日常生活が送れたと言っており、ピロティ効果の有効性が認められた。

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写真4 宮城県気仙沼市大谷海岸近くの1階ピロティ構造住宅。無被害。

 

ピロティ構造は図1に示すように柱と梁だけから造られている。柱と梁しかないので、津波は建物の中を自由に行き来できる。それ故、津波の力を受けにくい。津波に強い建物を造るのに適している。

 

1 ピロティ構造では津波が自由に行き来できるので津波に強い建物を造れる

 

 

4.漂流物による津波被害

東日本大震災での漂流物被害の状況の1例を示す。写真5は海岸線から直線距離で約1.9㎞の地点である。浸水痕が写真の店舗の外壁に残されており、車道の路面から約1.8mの浸水深が確認された。この地点では残存漂流物として車が数多く確認でき、この車により建物の1階部分が破壊されていた。写真は車が店舗の1階部分に衝突して入り込んだ様子を示している。このように窓やドアなどの開口部と壁の一部が破壊されていた。

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写真5 漂流物が店舗内に流入している

 

写真6は海岸線から直線距離で約1.6㎞の地点である。写真には無いが浸水痕が残存した住宅の外壁に残されており、車道の路面から約2.3mの浸水深が確認された。この地点の建物は倒壊したものが多く、倒壊をまぬがれた建物でも1階部分は被害を受けていた。漂流物としては小型の船舶、車、建物の瓦礫が目立った。写真の船舶は、約長さ7.5m×2.5m×高さ1.5mの大きさである。このように、漂流物によって建物が被害を受けている事例は東日本大震災では無数に見られた。

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写真6 大きな船も漂流物となる

 

津波とピロティ構造(その3)

5.津波に対する建築物の構造設計

津波に対する建築物の構造設計方法として、津波避難ビル・津波避難タワー等の避難建築物についての構造設計指針が、20122月に国土交通省住宅局及、国土技術政策総合研究所、独立行政法人建築研究所により、「東日本大震災における津波による建築物被害を踏まえた津波避難ビル等の構造上の要件に係る暫定指針」2)(以下、暫定指針)がとりまとめられた。

この暫定指針は、津波に対し構造耐力上安全な建築物の設計法等について検討したものであり、東北地方太平洋沖地震の被害状況調査を踏まえ、2005年に発表されたガイドラインに示されていた下式の津波波圧算定式の水深係数を、津波の勢いが軽減されることが見込まれる場合には低減できると見直しを行なったものである。詳しくは文献2)を参照してもらいたい。

qz=ρg(ahz)

ここに、qz:構造設計用の進行方向の津波波圧(kN/m2)、ρ :水の単位体積質量(t/m3)、 g :重力加速度(m/s2 h :設計用浸水深(m)、 z :当該部分の地盤面からの高さ(0≤z≤ahm a :水深係数(状況に応じ、1.53.0)、暫定指針では、津波避難ビル等を設計する際の外力として、津波波圧を想定し算定式を示している(図2参照)。また、津波被害調査から、建築物に被害を与える外力には津波波圧意外にも漂流物による衝突力があることがわかり、漂流物の衝突力についても記述はあるが、衝突力については現在研究中であり、オーソライズされていないと示されている。

2 津波波圧式

 

暫定指針中には多くの設計例が示されているが、衝突力については図3に示すように、衝突力により柱などの鉛直部材が(A)が破壊した場合には、応力の再分配により柱(B)が負担するとして建物の安全性を確保するとしている。しかし、図4に示すような小規模な住宅などでは、1本の柱が衝突力で破壊した場合に応力の再分配が不可能なこともあり、建物全体の崩壊を招くこともある。そのようなことが起こらないようにするには衝突力を求め、柱が衝突力で破壊しないように設計する必要がある。そこで衝突力について検討するために、以下に示すような実験を行った。

 

3 衝突力により柱が破壊した場合の設計方法

 

a. 衝突力で柱破壊  b. 住宅全体崩壊

4 ピロティ住宅の柱が衝突力で破壊した場合の住宅全体の崩壊

津波とピロティ構造(その4)

6.遡上津波による漂流物の衝突実験

6.1 実験目的

漂流物の衝突力については松冨3や池谷ほか4などによる先駆的な研究がなされているが、その研究のほとんどが、漂流物が壁面に働く力を調べており、ピロティ構造の柱のように津波から見て細い柱に働く力は改めて調べる必要がある。漂流物の衝突力を把握するためには、漂流物の衝突速度と付加質量について調べる必要がある。衝突力については、その時系列のピーク値が調べられることが多いが、住宅等構造物の場合は柱の材料が木材、鋼、コンクリートなど色々あり、また、その構造上の弾性も色々とあり得る。そこで本報では漂流物の運動量に着目することとした。すなわち、漂流物が衝突するときに速度が急変して運動量が変化する。その量は、漂流物の形状により定まる付加質量に大きく依存し、物体の材料や柱の構造にあまり左右されないと考えられる。そして、その付加質量が把握できれば、津波による衝突時の速度を推定し、運動量の変化、すなわち衝突力の力積を与え、これを衝突時の構造強度計算の入力とすれば、構造物の耐力の検討が可能になると考えられる。

付加質量を調べるため、衝突後の漂流物が停止すると仮定し、漂流物自身の質量mと流体の付加質量ma、衝突速度をvとすると、力積と運動量変化の関係より(1)式が得られる。よって,この式により付加質量maが求められる。

Fdt=(m+ma)v・・・(1)

本報告では、不明な点の多いピロティ構造の柱に対する漂流物の衝突力について調べるため、実験を行い、構造物の耐力を検討するために、必要となる漂流物の付加質量と衝突速度について報告する。

 

6.2 実験方法

実験状況を図5に示す。実験の縮尺は1/100である。開水路内に仙台湾の海底部分を模した傾斜部(1/10)と平野部を設置した。遡上津波を発生させるため、空気式造波装置内の吸引高さを40cm70cm(以下、ht40ht70と略称)とし2種類の津波を発生させる。ht40の波は海岸線(傾斜部と平野部の境界線)で最大浸水深が 6.0cmであり、ht70では約9.0cmである。衝突力を計測するために図6に示した検力装置でロードセル LMA-A型小型圧縮型)により衝突力を計測した。検力装置の設置位置は、海岸線付近を仮定したL=50cm(L:海岸線から平野部側への距離)の位置と、海岸線から約1km以上後方の内陸部を仮定したL=450cm2箇所である。漂流物として図7に示した厚板型を使用した。漂流物を衝突させる場合は、漂流物の初期位置と検力棒の距離を変えて遡上津波を発生させる。遡上津波の水粒子速度を計測するために、漂流物の無い状態で、PIVシステムを用いて計測した。図7には実験に使用した漂流物模型を示す。漂流物の衝突速度は漂流物に細い棒(直径:0.2cm、長さ:17cm)を立て、PTVシステムを使用して計測した。

 

 

図6検力装置

 

 7 漂流物模型(質量91 g)

 

 

 

津波とピロティ構造(その5)

6.3 実験結果

遡上津波の水粒子速度と漂流物衝突時の直前の0.02秒間の衝突速度を89に示す。

 

 

 8 水粒子速度と漂流物速度の時系列

(L3h t70 front)

 

漂流物の衝突速度は一連の0.02秒間の最後の値となる。波の波前面で水粒子速度が検知される前から漂流物の速度が計測されているが、これは遡上津波がL3の場所に到達する前に漂流物が押され始めて衝突することを示している。波前面での衝突は衝突時刻が後ろになるほど加速時間が長くなり速度が大きくなる。一方、波後面での衝突は、ほぼ水粒子速度と同じになり、詳細に見るとわずかに減速傾向にある。

 9 水粒子速度と漂流物速度の時系列

(L3h t70 back)

津波とピロティ構造(その6)

以下の実験結果には、今回の遡上津波(L=50cmL=450cm)の他に、以前に行なった孤立波5) (η3η5η8)と遡上津波6) (L=15cmL=85cm)の結果を追加している。図10には力積と衝突速度の関係、図11には付加質量と衝突速度の関係を示す。力積はで無次元化している。ここに、漂流物の重量:W、漂流物長さである。そして衝突速度はで無次元化している。また、付加質量は漂流物の質量で無次元化した付加質量係数:Cmma/mで表わしている。

10より、全ての計測位置で衝突速度が大きくなるにつれ衝突力の力積も大きくなる。各計測位置での衝突速度の最大値は22.4倍の速度であり、このときに力積も最大値となる。ただし、L=15cmの計測位置では、漂流物の初期位置と検力棒の距離を十分にとることができず、漂流物が十分に加速できなかったため、最大衝突速度が小さくなったと考えられる。

 

 10 衝突力の力積と衝突速度

 

 次に図11より、孤立波の場合は漂流物速度が速くなるにつれ付加質量係数は1.0に近づいていくが、遡上津波では計測位置がL=15cmおよびL=50cmL=85cm の場合に付加質量係数は全ての漂流物模型で1.0以下にばらつくことがわかる。一方、L=450cmの場所では付加質量係数は0.5以下にばらつくことがわかる。


11 付加質量係数と衝突速度

 

津波とピロティ構造(その7)

6.4 実験の結論

遡上津波の場合、漂流物による衝突力の力積は漂流物の衝突速度におおむね比例する。その漂流物の衝突速度の最大値は、海岸線付近でも内陸部でも2.4倍程度の速度となる。それ故、その速度のときに力積が最大となり、そのとき海岸線付近で付加質量係数は1.0程度となる。一方、内陸部では0.5程度となり、海岸線付近での値の半分となる。実際の漂流物の衝突により発生する衝突力を求めることができる。

 

7.まとめ

ピロティ構造は津波に対して有効な構造である。しかし、ピロティ構造の柱に対する漂流物の衝突力の大きさに関しては、まだ不明な点が多い。そのようなことから、文献2)の設計例においても衝突力は不明のまま、応力の再分配という考え方で処理している。

不明のまま設計することは、決して良いことではない。そこで本報では柱に対する衝突力について実験により検討した。その結果、本報の実験方法を用いることによって衝突力を解明し得ることが分かった。そこで、今後本報の実験方法を用いて種々の衝突力について検討し、衝突力を設計に取り決めるよう努力する所存である。

 

参考文献

1)津波避難ビル等に係るガイドライン検討会,内閣府政策統括官(防災担当):津波避難ビル等に関するガイドライン,20056

2)国土交通省国土技術政策総合研究所,一般社団法人建築性能基準推進協会,協力独立行政法人建築研究所:東日本大震災における津波による建築物被害を踏まえた津波避難ビル等の構造上の要件に係る暫定指針,20142

3)松冨英夫:流木衝突力の実用的な評価式と変化特性,土木学会論文集,No621/Ⅱ‐47pp1111271999

4)池谷毅,稲垣聡,朝倉良介,福山貴子,藤井直樹,大森政則,武田智吉,柳沢賢:津波による漂流物の衝突力の実験と評価法の提案,海岸工学論文集,第53巻,pp276280 2006

5)澁谷陽,新井信一,高橋敏彦,相原昭洋:孤立波による漂流物の衝突力と付加質量,土木学会論文集B3Vol.67No.2,pp.565-570,2011

6)澁谷陽,相原昭洋,新井信一 ,高橋敏彦:平野部に遡上した津波による漂流物の衝突力,土木学会論文集B3Vol.67No. 2,pp.210-215,2012

7)松冨英夫:流木衝突力の実用的な評価式と変化特性,土木学会論文集,No.621/II-47,pp.111-127,1999

8)S,Arai.A,Sibuya.A,Aihara.T,Takahasi:Inundation and Damage by Run-up Tsunami of 2011 in the Sendai Plain,Japan,ISOP-2012,2012

 

 

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